1953年、ノーマン・グランツ率いるジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック(JATP)の公演で来日していたオスカー・ピーターソンが、クラブで一人の女性ピアニストを見出します。彼女の名は、秋吉敏子。数日後、JATPのメンバーのリズムセクションをバックに、東京で彼女の演奏が録音されることに。本場の超一流ジャズマンをバックに緊張するのは無理もなく、数曲で「もうできない」という秋吉を休憩させ、スタッフは励まします。休憩後は吹っ切れたのか一転してノッてくる。まるでバド・パウエルのように。このアルバムには、前半の少し萎縮した様子と、後半の奔放な演奏がドキュメントされています。別に演奏にミスがあったり、上手だったりという技術的なことではなく、気持ちの入り方ひとつでこうも違うのかと、ジャズの不可思議さを思います。この時の録音は、デビッド・ストーン・マーチンのオリエンタルなイラストのジャケットで、Verveレコードからアメリカで発売され、ダウンビート誌で3つ星の評価を受けました。一人の日本人女性ピアニストがジャズの本国で認められるという歴史的な偉業を成し遂げたのでした。
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カテゴリー: 日本のピアノトリオ名盤
大西順子 『WOW』 Junko Onishi “WOW” 057
アンニュイな表情に惹きつけられる優美なジャケット。でも、その演奏はパワフルでダイナミック。大西順子はこのデビュー作でいきなりスイングジャーナル ジャズ・ディスク大賞 日本ジャズ賞に輝きます。このアルバムの半分は彼女の作曲。その他は、セロニアス・モンクやオーネット・コールマンのクセのある楽曲を取り上げるなど、新人でありながらすでに大物の風格を漂わせています。のびのびとスケール感のある演奏は、日本人であること、女性であることを飛び超えて、ジャズの極みへ昇っていきます。
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上原ひろみ 『アナザー・マインド』 Hiromi “Another Mind” 058
TVドキュメンタリー番組「情熱大陸」で彼女が取り上げられ、キリン「モルトスカッシュ」、YAMAHAなどのTVCM、「AERA」の表紙を飾るなど、もはや人気がジャズ界にとどまらない勢い。リアルタイムでこんな才能に出会えるなんて嬉しいかぎり。全曲、彼女のオリジナル。「超絶技巧を駆使するには自作曲じゃなきゃ」と語る彼女の頼もしさ。バークリー在学中に録音されたこのデビュー盤は、#1 “Xyz” からとんでもないジャズが始まります。まるでプログレッシブロックをジャズのフォーマットでやっているよう。デジタルな#5 “010101 (Binary System)” をはじめ、多様な音楽性を内包したジャズは、まったくもってユニークかつ斬新。髪の毛を逆立て、一心不乱にピアノを弾きまくりますが、天真爛漫な笑顔も見せてくれる新世代女性ピアニスト。これからが本当に楽しみ。(※本文は2004年執筆)
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鈴木勲 『ブロー・アップ』 Isao Suzuki “Blow Up” 103
ハードボイルド気分でおすすめしたくなる日本のジャズの金字塔『Blow Up』。70年代日本のジャズの一つの到達点と言っても過言ではないでしょう。緩急自在のドラマティックな展開、活気みなぎる迫力の演奏を収録したこのオリジナリティ溢れるアルバムは、1973年度 スイングジャーナル ジャズ・ディスク大賞 日本ジャズ賞に輝きます。特に#3 “Blow Up” 、「無茶苦茶カッコいい」の一言に尽きます。ぶっちぎりなスピードにたわむ鈴木勲のべース弦、その旋律が華やかに跳ね回る菅野邦彦のピアノ、繊細かつ大胆に炸裂するジョージ大塚ドラムス。嗚呼、この三位一体の弾丸に魂を打ち抜かれるカタルシス!
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富樫雅彦 『ザ・バラード』 Masahiko Togashi “Ballad My Favorite” 104
そうです、そうです、こういう大人のバラッド集が聴きたいのです。細心の注意を払うように演奏されたスタンダードの数々。その繊細で内省的なアプローチは、深遠な広がりと崇高な美しさで魅了してくれます。スピリチャルな響きは富樫雅彦(パーカッション)ならでは。ピアノの佐藤允彦もゆったりと構えて応え、録音もよし。深く息を吐いて落ち着くような密度の高い静寂を堪能できます。
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