レイ・ブライアント 『アローン・アット・モントルー』 Ray Bryant “Alone at Montreux” 122


ピアノの音が活き活きと飛び跳ねる――オスカー・ピーターソンの代役としてモントルー・ジャズ・フェスティバルに急遽出演となったレイ・ブライアントのソロ・ステージ。大舞台ですが、もの怖じもせず溌剌としたタッチで弾きまくります。かなり調子が良さそうで、聴衆も大盛り上がり。このアルバムはライブの臨場感がよく伝わる録音。アンコールの#9 “Until It’s Time For You to Go” はレイと聴衆が一体となり、その瞬間を名残惜しむような切ない響きが感動を呼びます。ジャケットはちょっと怖いのだけれど……。

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ダラー・ブランド 『アフリカン・ピアノ』 Dollar Brand “African Piano” 129


ダラー・ブランドというアフリカ人ジャズピアニストのオリジナリティ溢れるソロ作品。アフリカンフィーリングを感じさせるオンリーワンの独特なピアノ。湧き上がってくる感情をダイレクトに鍵盤にぶつけるタイプのピアニストです。高音域に重点をおく録音のECMレーベルのソロピアノのせいか、そのスタイルにキース・ジャレットのような土着的ニュアンスを感じさせます。それでいて、ストイックな現代音楽にも通じる響きもあるような……。なんとも形容しがたいピアノですが、おそらく彼の演奏とECMの肌合いの違う組み合わせが、不思議な効果を生んでいるのではないでしょうか。

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マル・ウォルドロン 『オール・アローン』 Mal Waldron “All Alone” 181


はぁ……、悲しい。もう1曲目から悲しすぎます。涙に音があるならきっとこんな音でしょう。本作マル・ウォルドロンの全曲オリジナルによるピアノソロ アルバムは、どっぷりと浸りたくなるような哀愁に溢れ、とつとつとしたピアノが心の琴線に触れてきます。聴くときはハンカチのご用意を……。

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リッチー・バイラーク 『ヒューブリス』 Richard Beirach “Hubris” 193


美しすぎるソロピアノ――『ケルン・コンサート』の次に聴くべきはこれでしょう。1970年代、チック・コリアの『Piano Improvisations Vol.1』から始まったといわれるソロピアノブーム。この表現のひらめきを感じさせる芸術的な傑作に比べるなら、リッチー・バイラークによる本作『ヒューブリス』はみずみずしい情感をたたえた叙情的な名作。何といっても#1 “Sunday Song”。憂いの予感に立ち上がる旋律の美しさ。息を凝らして聴いて、つい溜め息がでてしまいます。全編、憂愁のグレートーンですが、#8 “The Pearl” のほのかな明るさと伸びやかな広がりをみせる演奏もきれい。ラストに再び繰り返される “Sunday Song” のリフレインもアルバムのトータルな印象を強めています。ちなみに彼にはもう一枚よく知られている名盤『ELM』がありますが、こちらの#1 “Sea Priestess” で聴けるのも吹き抜ける風のように清々しい、素敵すぎるピアノです。

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キース・ジャレット 『レイディアンス』 Keith Jarrett “Radiance” 199


キース・ジャレット、2002年のソロコンサート。大阪と東京の録音で、「Radiance」とは「燦然とした輝き」という意味。キースのソロピアノの歴史は1970年代までさかのぼれますが、これまでの30分以上にもわたる長大な演奏に対し、本作は2005年『The Carnegie Hall Concert』、2008年『Testament』へと継承される比較的短い分数での演奏をつないでいくスタイルをとっています。その時のひらめきをそのままダイレクトに(音楽的構成の制約を受けずに)演奏できるのでしょう。聴衆を前にピアノ一台だけでのぞむ完全即興のソロピアノという表現形式。この躍動感あふれる音楽は、キースの言葉によると(喜怒哀楽といった感情の背後にある)「透明な感情」のエネルギーから生まれるといいます。ちなみにキースのうなり声は感情的なものではなく、彼を通してあふれ出てくる音楽が強烈だからでてしまうのだそうです。(「インナービューズ キース・ジャレット」山下邦彦/ティモシー・ヒル編・訳より)キースの言う「透明な感情」とはおそらく潜在意識のことではないかと。自我や意識の深層にある潜在意識(フロイトのいう無意識・エス)にチャネリングし、生命の根源から吹き出してくるものを演奏しているのではないでしょうか。ジャズとは、あるいは音楽とは原理的にそのようなものかもれませんが、キースは独自のスタイルで自覚的にこれを行っているように思います。このアルバムは現代音楽のような響きと静謐な雰囲気があり、特に [Disc1] #6 “Part 6”、#8 “Part 8”、[Disc2] #4 “Part 13”、#6 “Part 15”、#7 “Part 16” では耽美的なメロディが聴けるので今世紀のソロ作品の中でも一番のお気に入り。この3枚だと、親しみやすいのは “My Song”も 含む『The Carnegie~』で、トータルな完成度としては『Testament』でしょうか。

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