1940年代後半から50年代前半のビバップの流れから、より静的なクールジャズが生まれます。これは、その代表的な一枚。盲目のピアニスト、レニー・トリスターノは独自の理論を実践した音楽家で、その門下からはリー・コニッツ(as)などを輩出します。このアルバム『鬼才トリスターノ』は、前半のラディカル(急進的)な演奏と後半のオーソドックス(正統的)な演奏が、――レコードの表裏にあるA/B面とは言えども――まったく異なる大胆な対蹠的(正反対の)構成。#1 “Line Up”、#4 “East Thirty-Second” はドラムとベースを先に録り、後でピアノの速度を速めて録音、#2 “Requiem”、#3 “Turkish Mambo” はピアノの多重録音というモダンジャズにおいては革新的手法。そのフラットでミニマムな音が連続する人工的な構築美に、張り詰めた気迫がこもる不可思議さ。#5 “These Foolish Things” からは打って変わり穏やかな演奏で、ウエストコーストジャズへの潮流を感じさせます。
このページを読む →
カテゴリー: ▼おすすめ ジャズ名盤 レビュー
アルバート・アイラー 『グリニッチ・ヴィレッジのアルバート・アイラー』 Albert Ayler “Albert Ayler In Greenwich Village” 187
アルバート・アイラーの傑作。2つのライブ音源で構成されていますが、アルバムを通して高揚していく一体感も感じられます。前半は情感をたたえた音色のドラマティックな演奏で、後半は後のチャーリー・ヘイデン『Liberation Music Orchestra』やファラオ・サンダース『Karma』に通じるようなフォーキー(民族音楽、フォークソング的な)な哀愁をにじませる演奏。#4 “Our Prayer” で弟ドナルド・アイラーの淡々とフレーズを追うトランペットにアルバート・アイラーのフリーキー(型破りな)トーンのテナーが絡み、胸を打ちます。ジャズはその表現形態のひとつの極点として、フリージャズをもっていることを誇っていいでしょう。
このページを読む →
ハービー・ハンコック 『V.S.O.P. ニューポートの追想』 Herbie Hancock “V.S.O.P.” 188
1976年ニューヨークでの「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル」。6月29日は「Retrospective of the Music of Herbie Hancock」と題されたハービー・ハンコックの音楽を回顧するイベント。60年代マイルス・デイビス クインテット、70年代前半の三管編成、そして当時のヘッドハンターズと、メンバーを入れ替えての3セットのステージ。マイルス・デイビスは病気療養中のためフレディ・ハバードが代役を務め、一回限りのはずがその後もこのメンバーで、「V.S.O.P. (Very Special One-time Perfomance) クインテット」として活動することになります。もちろん本作での注目すべきはこの「V.S.O.P.」のセットなのでしょうが、全編聴き応えあり。個人的なオススメは、#8 “Hang Up Your Hang Ups”、#9 “Spider” のワゥ・ワゥ・ワトソンとレイ・パーカー・ジュニア。左右からのエレキギターに、ヤラれます。
このページを読む →
マイルス・デイビス 『ドゥー・バップ』 Miles Davis “Doo-Bop” 189
マイルス・デイビスのラスト・アルバム――制作中にマイルスが亡くなってしまったので、ラッパーのイージー・モー・ビーが収録された音源をもとに完成。全編ヒップホップのリズムにマイルスのトランペットがのり、#2 “Doo Bop Song”、#5 “Blow”、#7 “Fantasy” はなんとラップナンバーです。「Be-Bop(ビバップ)」と「Doo-Wop(ドゥーワップ:黒人のスキャットもするコーラススタイルのポップス)」で「Doo-Bop」。この掛け合わせのインパクト。引退から復帰した晩年のマイルスが、ポップスターのようにトランペットで「歌う」演奏もまた魅力的。彼は成熟の先にあるただ一つの「完成」では決して満足せず、常に時代の流れに向きあい「変化」を追い求めたのでしょう。
このページを読む →
山本剛 『ミスティ』 Tsuyoshi Yamamoto “Misty” 190
Misty : 霧のたちこめた、雲のようにぼんやりとした――#1 “Misty” 「ミスティ」はジャズピアニストのエロール・ガーナーによる有名曲ですが、山本剛の代表的な演奏曲でもあります。美しい音色が緩やかに漂いながら惹き込んでいく陶酔の世界。ただただ麗しくたゆたう旋律を奏でながら、そこに裏打ちされているのは透徹した(澄み切った)精神のストイシズム。山本剛の本領がここに遺憾なく発揮されています。#2 “Blues” はキレのある音色が小気味よくスイングする自作曲。3曲目から最後まで、もう嬉しくなってしまうお馴染みスタンダードのオンパレード。硬質な音色がクリアに響く録音も秀逸です。ちなみにTBMレーベルのベストセラー第一位。
このページを読む →