山本剛 『オータム・イン・シアトル』 Tsuyoshi Yamamoto “Autumn In Seattle” 191


山本剛が弾く映画音楽――このサービス精神あふれるコンセプト。映画のテーマ曲からの選曲ですが、ジャズのスタンダードとしても良く知られているものばかり。アルバムタイトルにもなっている自作曲#3 “Autumn In Seattle” は映画音楽ではありませんが、これもドラマティックな叙情性をたたえた美しい佳曲。また彼の代表的な演奏曲として知られる#4 “Misty” をアップテンポの新鮮なアレンジで聴かせてくれたり、彼が高校時代に聴いてジャズピアニストを志すきっかけになった#7 “No Problem” など、彼を良く知るファンも十分に聴き応えのある内容となっています。映画とは観客を楽しませてくれたり、夢を見させてくれたり、感動を与えてくれたりするものですが、それがそのまま山本剛の演奏にも通じるという、このアルバムの心にくい演出。ゆったりとした気分で過ごしたいときには欠かせない愛聴盤です。

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鈴木勲 『ブロー・アップ2』 Isao Suzuki “Blow Up 2” 192

Blow Up 2


日本のジャズ史上に燦然と輝く金字塔『Blow Up』。あれから30年、まさかの続編として2003年に制作されたアルバム。メンバーは鈴木勲、菅野邦彦、ジョージ大塚の黄金トリオに鈴木勲『Black Orpheus』などの名盤に参加している盟友山本剛、そして「鈴木勲とOMA SOUND」の若手たち。タイトルを渋い深みのある声で響かせると、雄大な風景の広がるような#2 “What A Wonderful World” 「この素晴らしき世界」で幕を開けます。この曲で鈴木勲は古楽の擦弦楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバを幽玄に奏で、そして後半は一転してなんとピアノの菅野邦彦とエレクトリックピアノの山本剛が軽快に競演します。多くの曲で菅野と山本のダブルピアニストが同時に弾く豪華な布陣。#5 “My Foolish Heart” 「マイ・フーリッシュ・ハート~愚かなりし我が心」はヴィオラ・ダ・ガンバとベースに山本剛のピアノだけというシンプルな美しさも、この豪華な演奏に挟まれるとより引き立ちます。終盤の#8 “Nardis” 「ナーディス」は新しい世代のフレッシュな演奏で、聴きどころ満載の存分に楽しめる内容となっています。しかしながらあの名曲 “Blow Up” を再録して欲しかったと言うのは野暮でしょうかね。

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リッチー・バイラーク 『ヒューブリス』 Richard Beirach “Hubris” 193


美しすぎるソロピアノ――『ケルン・コンサート』の次に聴くべきはこれでしょう。1970年代、チック・コリアの『Piano Improvisations Vol.1』から始まったといわれるソロピアノブーム。この表現のひらめきを感じさせる芸術的な傑作に比べるなら、リッチー・バイラークによる本作『ヒューブリス』はみずみずしい情感をたたえた叙情的な名作。何といっても#1 “Sunday Song”。憂いの予感に立ち上がる旋律の美しさ。息を凝らして聴いて、つい溜め息がでてしまいます。全編、憂愁のグレートーンですが、#8 “The Pearl” のほのかな明るさと伸びやかな広がりをみせる演奏もきれい。ラストに再び繰り返される “Sunday Song” のリフレインもアルバムのトータルな印象を強めています。ちなみに彼にはもう一枚よく知られている名盤『ELM』がありますが、こちらの#1 “Sea Priestess” で聴けるのも吹き抜ける風のように清々しい、素敵すぎるピアノです。

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ソニー・ロリンズ 『Volume 2』 Sonny Rollins “Volume 2” 194


「パワーソング」なるものがあります。文字通り元気が出る曲のことですが、アルバムでチョイスするなら私はこの一枚でしょうか。ソニー・ロリンズにピアニストがセロニアス・モンクとホレス・シルバーの交代制。このメンツ、どうしてもマイルスの『バグズ・グルーブ』を思い出してしまいます。世に言う「クリスマス(喧嘩)セッション」。マイルスのソロのバックでは「モンクは弾くな」と言ったとか言わないとか。このアルバムも結構好きなんですが、妙な緊張感も感じたりして……。もともと糸を吐いていくようなマイルスのトランペットと、ブツンブツンとぶつ切りにするようなピアノの相性は難しいのかも。その点本作は「ブヴァー」っとロリンズが快音でブローしてくれますので安心。#3 “Misterioso” モンクの独特の間のあるピアノのイントロに、ブレイキーとロリンズがそろそろと付いていくのも何とも可笑しい。やっぱりモンクは全部もってっちゃう感じがずるいかも。でもこの緊張感のあと、ホレス・シルバーのパートだとこっそりホッとしたりして。『バグズ~』ではミルト・ジャクソンのヴァイブが印象的ですが、本作はジャイ・ジェイ・ジョンソンのトロンボーンが心地よい艶のある音色で、個性派たちの間にすっぽりとうまく収まっています。ベースはハードバップを支え続けた名手ポール・チェンバース。そして#4 “Reflections” では「ズガーン」「ドガーン」と轟音で炸裂するドラム、アート・ブレイキーもやっぱり強烈。ブレイキーのドラムにあおられて、ロリンズ節を心ゆくまで堪能すれば、「元気があれば何でもできる」という気になります。「パワーアルバム」お試しあれ。

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綾戸智絵 『LIVE!』 Chie Ayado “LIVE!” 195


「聴いときやー!」――ご存知、国民的ジャズシンガー綾戸智絵の2枚組ライブアルバム。[Disc1]が六本木のジャズクラブ「Sweet Basil 139」(300人規模)、[Disc2]が札幌のコンサートホール「キタラ」(2,000人規模)というそれぞれの会場の特色がうまくでたソロライブ録音。

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